2018年4月20日金曜日

『シネマ』読書会 第15回

次回の読書会のご案内です。

日時:4月24日(火曜日)18時30分-21時
場所: 都内某所
テクスト:ジル・ドゥルーズ『シネマ1』
(財津理・齋藤範訳、法政大学出版局、2008年)
範囲と担当: 第8章「情動から行動へ—欲動イメージ」第一・二節
217–225頁 エリス
225–235頁 上田

今回は、第8章前半を読みます。
感情イメージと行動イメージの中間にある、欲動イメージがテーマとなります。
最初の区分では、知覚–感情–行動という三区分だったわけですが、
感情イメージと行動イメージのあいだに、欲動イメージが割り込むかたちになります。
映画作品としては、エリック・フォン・シュトロハイムとルイス・ブニュエルの作品が
主に取り上げられます。

任意空間をその場とする感情イメージと、
規定された空間(いわゆる日常的な空間のことだと考えてよいでしょう)を
その場とする行動イメージとのあいだにあって、
規定された空間の底に位置する「起源的空間」
(映画作品ごとに何らかの場面がこうした空間として想定されているようです)
を蠢く欲動イメージが、
主にシュトロハイムやブニュエルの作品にそくして分析されます。
純粋な情動ではなく、かといって行動につながるようなものでもなく、
あくまでもみずからの充足を目指して自律的に蠢くのが欲動イメージと言えそうです。

この「起源的空間」と規定された空間とのあいだには
時間的関係(エントロピー、反復)が見出されます。
ここから、下巻の主題となる時間イメージの問題が少しだけ予示されることになります。
また、欲動についてもその本性やその対象について詳しく分析されていきます。
ここですべてを紹介するのは難しい詳細な議論なので、
一緒に読みながら検討することにしましょう。

「欲動pulsion」ということばの選択や、
他に登場する語彙(欲動の対象や運命、フェティッシュ、死の欲動)から見ても、
フロイトの欲動論が下敷きになっているのは明らかだと思います。
ブニュエルはシュールレアリスムの作家として分類されることが多いと思いますが、
シュールレアリスムとフロイトの影響関係を考えても、
フロイトの理論を念頭に置きながら今回の範囲を読むと
少し見通しがつけやすいかと思います。

また、こうした欲動イメージは、文学における自然主義と対応すると言われています。
自然主義の代表的な作家としてエミール・ゾラが挙げられていますが、
ドゥルーズには独立したゾラ論があります
(「幻影と現代哲学」、『意味の論理学』下巻所収)。
興味のある方はそちらも目を通してみて下さい。

今回の範囲は、映画の技法というよりは作品の内容についての議論になっているので、
実際に映画を見ておかないと理解するのがなかなか大変になりそうです。
シュトロハイムもブニュエルもかなりの作品がYouTubeなどで見れるので、ぜひ少しでも見ておいて下さい。

まず、シュトロハイムの『愚かなる妻』
同じく『グリード』

ブニュエルの作品では、あまりにも有名な『アンダルシアの犬』
同じく『黄金時代』
『皆殺しの天使』の予告編

(以下、エリスさんによる読書会の振り返りです(5月1日追記)。)

議論にあがった論点としては、

●「起源的世界」と「規定された空間」の接続のされ方は、
「任意空間」と「規定された空間」の接続のされ方とどう異なるのか?
(内在vs潜在?)
また、情動と欲動は映画において本当に見分けられるものなのか?
(226頁 例えば、映画のクロースアップにおいて)

● フロイト心理学との関係
  - 「死の欲動」とは、エントロピーの増大による世界の崩壊への
エネルギーの動きのことか?
またその対概念として、「 ネゲントロピー」
(エントロピーの逆。例えば生物が体温を保って体温の分散を防ぐこと)についても
上田さんから少し説明があった。

  - 欲動が現実的な環境から「引き抜かれる」「抽出される」という表現について、
これもおそらくフロイトの欲動理論
(部分対象を引き抜いて欲動を抱く、フェティシズム)
を下敷きにしている。

  - 230頁「寄生欲動」とはなにか?これもおそらくフロイトの「固着」の概念との関係している。

● 悪しき「反復」からの解放(8章後半)の話と、
起源的世界において諸行動が
「諸行動を合成してはいなかった原初的な諸々の行為=現働態に向かって、
その諸行動は自らを越える」という話は
具体的にどうつながるのか?
さらに、「起源的世界への回帰」と「救済」の関係は何か?
(222頁〜徐々に「救済」に言及)

● 「欲動」と環境の関係:欲動は環境を探求し尽くして
どこで自らの欲望を満たそうとするが、
同時に欲動は、その環境のなかで規定され、
「選択」する自由を奪われるため、
欲動はさらに別の環境に向かっていく。
つまり、欲動と環境の緊張関係のようなものがあるのか?

などだったと思います。